Embers
seacret
朝起きて、身支度を5分で整える女がこの船上に何人いるだろうか?
(多分私一人だろう)
早起きが得意な私が、何で5分で支度しなくちゃならないかって?
それは、我が二番隊の隊長こと、火拳のエースを完全に目覚めさせるのに
2時間は軽く必要であり、私が奴を起こさなくてはならない為である
寝ぼけながら時に攻撃されたり、セクハラ紛いなことをされたりしながら
何とか隊長を起こすことに成功すると、息つく暇も無く第二のミッションが待ち構えている
(これがマジで面倒くさい)



ー!水ー!」
空になったコップを掲げ、早く注げと云わんばかりの隊長
「申し訳ございませんが、今は隊長の為に並んでいる最中なので御自分で注いで下さい」
(水くらい自分で注げ!)
小さくチッと舌打ちすると後ろに並んでいた船員が
「俺に出来きる事があったら、何でも言ってくれ」 と、目頭が熱くなる言葉をくれた
前に並んでいた船員も
は本当によくやっていると思う。俺は心から尊敬するぜ」 と、暖かい賞賛の言葉をくれた
(うん、私頑張る・・・!)



エース隊長は信じられないほどの大食漢で、大盛りに盛った食べ物もあっという間に食べ終えてしまう
その為、絶えず私が食料サーブの長い列に何度も並び続け、食料を給仕しなければならない
健康を考えて野菜を多めにすると「肉が食いたい!」とごねるから、うざいのでもう肉しか盛らない
(早死にしても、体臭がきつくなっても知らん!)
そして朝食がすむと、各隊員持ち場の清掃をし、10時頃には甲板に集まり戦闘訓練に励む
本来なら、隊長・副隊長は訓練のメニューを考えるため掃除を免れる
だが、二番隊副隊長の私は別・・・ エース隊長の部屋を毎日片付けなくてはならない
(何で毎日毎日こんなに散らかせるんだ・・・)
やっとアホ隊長の部屋を片付け終わり甲板に戻ると、他の船員はそれぞれペアになって始めていた



「おぃ、!」
「あぁ、隊長」
「おっせーよ」
(お前の部屋を掃除してたんだよ)
「すみませーん」
心の声はぐっと飲み込み、軽く謝罪をしておく
「まぁ、いっか。じゃぁ、昨日の続きなー」
にっと笑い、次の瞬間グッと間合いを詰めてくる隊長
私は距離を詰められまいと、足に力を込めて後ろに飛ぶ
タンッと乾いた音を立てて船首に着地すると、周りから喝采の拍手を浴びる
「えへっ、どうもどうも♪」
ネコネコの実、モデル黒猫。それが私の食べた悪魔の実
能力を発動すると、ダイヤモンドをも砕く硬度の鋭い爪が伸び
聴力は遥か彼方の足音さえも聞き取る。脚力は先ほど喝采を浴びた通り
地上を軽く1キロは飛び上がり華麗に着地を決める程に上がる



「おい、よそ見してっと・・」
拍手に気をとられていると、あっという間に隊長は船首に詰め寄り
右手に灼熱の炎を宿した拳を、躊躇いも無く私の足元に叩き込む
(ちょっと!これ、私たちの船!)
無残にも船首は折れ、遠くから船大工のため息が聞こえるのはいつものこと



「きゃぁー!」
足場を失いそのまま海に落下する
(ちょっと、私カナヅチなのに!)
スローモーションで落ちていく景色の中、手を伸ばす
その手を掴んだのはもちろんエース隊長
「だーから言ったろ?」
「よそ見してっと危ないって!」
ふてくされた顔をしながら隊長を見上げる
太陽が眩しくてますます顔をしかめると、隊長が
「助けてもらってその態度か」
「いや、太陽が眩しk」
「言い訳無用!」
「言い訳じゃない!」
「素直に謝れ!」
「は?私は何も悪いことなんてしてませんよ!
そもそも隊長が練習なのに本気出して船首を破壊するのが悪いんじゃないですか!」
「ほぉー、俺に向かってその態度とは」
「大体、隊長は私に色々押し付けすぎなんです!」
「そんなことねーよ」
「そんなことあります!他の隊の副隊長は、隊長を起こしたり
食事をサーブしたり、部屋を掃除したりさせられないもん・・・」
だんだん語尾が涙声になる
周りのクルーは毎度の事ながら、私に同情の涙を流してくれる
「だから悪いのは隊ちょ・・・」
「ジェニーちゃん人形」
ぼそりと一言、耳元で呟く隊長






(あぁ、神様!!何故よりによって隊長に、私のトップシークレットがばれてしまったの!?)