Embers
The word
午前の鍛錬を終え、昼食を食べに食堂へ向かう
朝食同様、隊長の食料確保の為本日5回目の行列に挑戦!
(あんだけ食べて何故太らない!?)
隊長の胃袋と新陳代謝の謎について考えながら並ぶ
あぁ、そうか!メラメラの実は基礎体温を上げる
だから、人より代謝がいい=お腹が空く=私が並ぶのね!!
オーケー分かった、もう悩まない
昼食が終わり大体一時間くらいフリータイム、つまり午後の鍛錬は一時間後
なんでもセクシーナースのお姉さま方曰く、食後すぐの運動は身体に悪いらしい
この一時間は隊長の雑務に追われることも無く、唯一のびのびと過ごせる貴重な時間!
あぁ、今日は何をしよう。天気がいいから甲板でお昼ね、キッチンに行ってお菓子作り、
お部屋に厳重に鍵をかけて、愛しのお人形の洋服作り、・・・・うん!それにしよう!!
意気揚々と鼻歌を歌いながら部屋に戻り、鍵をかける
(過去のような失態は二度と犯さない!)
ベットの下に隠してあった裁縫セットを引っ張りだし
この前の続きであるピンクのヒラヒラドレスのフリル付け作業に取り掛かる
(やっぱピンクにフリルが王道でしょ!)



「へー、って以外に器用なんだな」
「へ?」
恐る恐る振り返るとそこには、鍵をしっかりとかけたドアの前に堂々と突っ立っているエース隊長が
ベットの横に座る私の手元をしげしげと覗いていた
「鍵・・・どうやって」
「ん?あぁ、鍵かかってたんで体を火に変えてドアの下から入った」
ドアの下の隙間に目をやると、うっすらと焦げた痕跡があった
「それって、犯ざ」
「そうそう、そう言えば・・・」
(無視かよ!!)
「次の島は人形島らしーぜ」
「えっ!!」
人形島‐それは昔、まだ島の人口が少なかった頃、村人達が活気を出すために人形を作り始め
後にそれが島の名物になったという人形産業の発達した島である
「ちょっと、隊長!それはマジですかっ!!」
「おっ、おう!」
身を乗り出して問い詰める私に若干隊長が引いてるのは置いといて
「(あぁ・・・神様、これは普段シンデレラのようにパシリにされている可哀想で健気な私へのプレゼントなんですね!!)」
、お前心の声がだだ漏れ」
「はっ!つい・・・」
しまった!またしても隊長に私の乙女思考がばれてしまった!
シンデレラとか男顔負けの強さを誇る私が使う単語じゃない!
強く凛々しい女戦闘員キャラが崩れるじゃないか!



「シンデレラってなんだ?」
(ラッキー!学のないアホ隊長、シンデレラを知らないのか)
「おい、教えろ」
急に身を屈めて顔を近づけてきた隊長に若干焦るが、奴は知らないのだ
焦る必要なんて無い
適当にシンデレラは勇者だとか奴隷だとか嘘を教えとけばいい
「え〜と、シンデレラって言うのはぁ・・・むかーしむかし、王様に虐げられていた可哀想な女の奴隷で・・・しゅっ!?」
「嘘だな」
最後まで言い切る前に、隊長の大きな右手によって頬をつかまれた
「うしょじゃありましぇん」
「嘘だ」
「だからうしょじゃな」
「なぁ、。お前は嘘をつく時、自分の瞬きが多くなるのに気づいてないのか?」
ん?と頬を掴む手に力をこめ、再度問いかける隊長は何ともご機嫌そうな表情
(アホのくせに変なところ鋭い)
「うっ・・・」
眉間に皺を寄せて、答えに渋っていると
「おい、さっさと吐け」と言いながら掴んだ右手を思いっきり左右に振るもんだから、答えるに答えられない。
「こたえましゅかりゃはなしてくらしゃぃ」
なんとも情けない発音で悲願すると、やっと隊長は手をはなしてくれた
(頬が凹んだら隊長を怨む)
「で?」
「はぁ・・・、シンデレラっていうのは有名な童話のおっ、お姫様のことです」
(どもってしまう自分がキモい)
「へー。で、お前はそのシンデレラとかいうお姫様なのか?」
(ちっげーよ!バカ!シンデレラがパンツ履いて腰にサーベルを提げてるわけないだろ!)
「いぇ、私とシンデレラは似ても似つかない容貌ですよ。共通してるところといえば、パシリにされてるとこぐらいで・・・」



小さい頃から腕っ節が強く、女の子をいじめる村の悪ガキ達を(当時は自分も悪ガキだったが・・・)
片っ端からぶっ飛ばしていた私は、必然的にお姫様ごっこをする時は王子様役だった
その事に何の疑問も違和感も抱かなかった
だって私は強い
でも、憧れなかった訳ではない
一度でいい、たった一度でもいいから言われてみたかった



「俺は結構似てると思うぜ?」
(そう、誰でもいいから似ていると、肯定して欲しかっ・・・)
「へ?」
「だから、髪がさらさらでなげーとことか、目が大きいとことか、あー、色が白いとこなんかも似てんじゃねぇ?」
「え?だって、隊長、シンデレラ知らないって・・・」
「バーカ、そんな有名な話を本気で知らない奴がいるわけ無いだろ?」
本当には馬鹿だなーと目の前で呟く隊長に言い返すことができない
顔に熱が集まるのが分かる
段々と目の前の隊長が滲んでいって、自分の瞳に涙が溜まっていることに気づく
隊長に騙されたことが悔しくて赤くなっているわけでは、潤んでいるわけではない
ずっと、ずっと、誰かに言って欲しかった言葉を隊長が言ったりするから



「顔真っ赤」
そう言ってゆっくりと手を伸ばし、あやすようにそっと私を抱きしめた
「何?お前、照れてんのか?」
「ちっ!ちが・・・」
顔を上げると隊長の顔が思ったよりも近くて、言葉に詰まってしまう
「もっと言ってやろうか?」
にやっと笑う隊長
「いっ、いりません!」
「そうだなー、苛められてもめげないとこ」
「たっ隊長!」
「あとは・・・頑張り屋なとこ」
「もっもういいですってば!」
「そうそう、意地っ張りなとこ」
「いいかげんに」
「笑った顔ならシンデレラに勝てるんじゃね?」
「!!!!」



不覚にも最後の言葉にときめいてしまった私は言い返すことなど到底できず
せめて赤い顔は見られまいと隊長の胸板にぐっと顔を押し付けて俯く
すると顎を掴まれて顔を無理やり上げられた
「ほら、笑ってみろよ」
「・・・」
あまりにも調子に乗りすぎている隊長へ
笑顔の代わりに渾身の力を込めた頭突きをプレゼントしておいた






(ときめきを返せ!!)