「いたたたた・・・」
おでこに出来た赤いたんこぶを擦りながらベットに横たわる
私は馬鹿だ 自然系能力者である隊長に物理攻撃が効かないことは 百も承知なはずだったのに
隊長に思いっきり頭突きをお見舞いしようと試みたが 結果は床に頭突きし自滅 という結果になった
床に頭をのめり込ませている状態の私に 「ぶっ・・・おま、ばっかだなー」 と言って ゲラゲラ笑いながら部屋を去っていった
(隊長は一体何しにきたんだ・・・)
裁縫なんて繊細な作業をする気分ではなくなり (隊長のせいで!!)
仕方なく 残り時間は昼寝でもしようとベットに横になった
* * *
目を開けると窓の外はすっかり日は落ち暗闇で 船は夜の暗い海の波に揺られ静かに進んでいた
(やば・・・寝過ごした)
とりあえず起き上がろうと片足をベットから下ろした瞬間 部屋の扉が開いた
「おっ、目ぇ覚ましたのか」
そこには右手に大皿 左手に酒瓶を2本持ったエース隊長が居た
扉を足で閉めると ベットの横に腰を下ろし 皿と酒瓶を床に置いた
大きな皿には 今日の晩御飯であったであろう チキンやらピザやら色々盛り合わせており
何とも食欲を掻き立てる匂いが部屋に充満した
「・・・わざわざ、申し訳御座いません」
「気にすんな! が爆睡してたのは俺の所為でもあるからな!」
(あ、一応自覚あるんだ・・・)
「お前今、失礼なこと考えただろ・・・」
「まっ、まさか!! それより冷める前に食べましょう!!」
慌てて話をそらしたけれど そーだな と言って食事に夢中になった隊長はそれ以上追求してこなかった
(やっぱ、単純・・・)
あっと言う間に 大皿に盛られていた料理達は私と隊長の胃袋に消えていった
「はー、食った食った」
「ご馳走様です」
空いた食器を端によけ 残りの酒に口をつける
食事を終え することがなくなり訪れる微妙な沈黙 何か話さなければ と思い思考を巡らすがこれと言って思い浮かばない
隊長の好きな事は・・・肉? いやそれは今食べたし・・・弟? でもそれはもう耳にたこが出来る程聞かされた あ、故郷の話なら・・・
「そういえば、隊長の故郷はどちらなんですか?」
「東の海にあるフーシャ村ってとこだ」
「え、偶然ですね! 私も東の海出身なんです。 マニラっていう小さな田舎町なんですけど」
「マニラ・・・聞いたことねぇなぁ」
「まぁ、小さな町でしたから。 それでも私にとっては大切な故郷なんです」
「・・・故郷、ねぇ」
「たまには隊長もご両親に手紙でも書いたら如何ですか? きっと喜ばれますよ」
は親に可愛がられて育ったんだな そう言って隊長は 残りのお酒を一気に飲み干した
空いた酒瓶を端に置くと 膝に肘を突きながら頬杖をつき 床を見つめながら言った
「俺の父親は俺が生まれる前に死んで、母親は俺を生んで死んだんだ」
床から此方にゆっくりと視線だけ移す 上目使いの眼差しは前髪の影の所為だろうか いつもより暗い
楽天的な雰囲気とは異なり 息苦しい程悲しい空気を纏う こんな隊長は見たことがない
何時だって 何があったって 太陽のような笑顔で仲間を支えていた隊長なのに
息が詰まりそうで 声がスムーズに発せられなかった
「・・・・そっ、それは、お気の毒でした」
自分の台詞があまりにも陳腐で情けなかったが 上手く言葉に出来なかった
今だ体勢を少しも崩さず此方を射抜くように見つめる隊長に 嫌な汗をかいた
「だろ? じゃぁ、慰めてもらうとするか」
「へ?」
急に立ち上がったかと思うと 隊長は私の両手首を掴み 床に押し倒した
馬乗りになる隊長の顔は影でまだ暗い
そのまま顔を首筋に沈め 生暖かい舌の感触を感じ やっと頭が状況に追いついた
「たっ、隊長!! ふざけないで下さい!!」
足をバタバタと暴れさせても それは隊長の体を虚しくむ突き抜けてしまう
それなのに 両の手首を掴まれた箇所はギリギリと痛みを感じる
敵わない そう体が理解すれば 目からはポロポロと涙が流れ落ちた
隊長がそれを優しく舌で拭う 至極近い距離で隊長の瞳を覗けば
その瞳は心なしか潤んでいたように見えた
「・・・・馬鹿、本気にすんなよ」
そう言って 何事も無かったかのように起き上がり 空いた皿を持って扉に向かう隊長
ギィッ と音を立てて木製の扉を開ける
「部下に手を出すほど飢えちゃいねーよ」
そう言って扉を閉め去っていった
襟元の乱れを直しながら 床に座ったまましばらく呆然としていた
途中までは恐怖しかなかった けれど 最後に垣間見せた隊長の寂しそうな瞳は
意地っ張りで素直になれない けれど 誰かに気づいて欲しい そんな子供のような色をしていた
その後 何故か書庫に足を運び 今日と同じ日付の古い新聞を読み漁った
1つ目に留まった記事は ローグタウンでの 海賊王 ゴールド・ロジャーの公開処刑
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(死んだ父親は)