Embers
Word to be told



今日が休みでよかった 大きな船だ 部屋で大人しくしていれば隊長と顔を合わせることも無いだろう
昨夜、書庫から持ち帰ってきた記事をもう一度眺める
そこにはセピア色の写真の中 処刑台で不敵に笑う 偉大な男の最後が写しだされていた

(ゴールド・ロジャー・・・)

もし私の推理が当たっていれば 昨日の隊長らしからぬ行動も 底知れぬ戦闘力も 人を惹き付けるカリスマ性も全てが合致する
だとすれば きっと親父は全てを知っているだろうし 私より古株のクルー達も知っているだろう

(・・・確かめてどうするつもり)

確かめて もし当たっていたら その後は?



「お気の毒ですね」 いや、それでは昨日と同じ
「気にされること無いですよ」 これも却下
「握手してください」 それこそ、失礼極まりない愚かな台詞だ
「隊長は隊長ですよ」 その言葉と意味を合致させるだけの力量は若い私には無いだろう
(親父が言えば別だろうけど・・・)


考えれば考えるほど 自分のような若い未熟者は 首を突っ込まない方が良く思えてきた
触らぬ神に祟りなしと言うじゃないか そうしよう 明日また何事も無かったかのように隊長のサポートに徹すればいい
今まで通り何も無かったかのように だってまだ私は何も知らない訳だし
バタン と勢い良くベットに倒れこむ 窓から差し込む日差しを浴びて 舞うホコリがまるで雪のようにゆっくりと下降する



 * * *



『俺は結構似てると思うぜ?』

嘘でも嬉しかった

『だから、髪がさらさらでなげーとことか、目が大きいとことか、あー、色が白いとこなんかも似てんじゃねぇ?』

童話の中のお姫様に憧れて伸ばし始めた髪

『そうだなー、苛められてもめげないとこ』

そう思ってるなら部屋の掃除は自分でしてくれればいいのに

『あとは・・・頑張り屋なとこ』

一応評価して貰えているのかな

『そうそう、意地っ張りなとこ』

隠れ意地っ張りなのに 隊長よく見てるなー

『笑った顔ならシンデレラに勝てるんじゃね』

小さい頃からの 小さな小さな私のコンプレックスを 太陽みたいな笑顔で解かしてくれたのは 隊長


 * * *


ゆっくりと瞼を開く あの夜なんで突然書庫に向かったのか なんで隊長の過去を調べようとしたのか 今更になって気づいた
あの寂しそうな瞳は 童話を読んでいた自分の瞳と同じだった
そして それを拭い去ってくれたのは隊長
だから あの時 私もあなたのその瞳を拭い去ってあげたい そう思った
確証はない かける言葉も決まっていない なのに 一秒でも早く 隊長に会って伝えたかった
勢い良く扉を開く 潮風が頬を掠める 太陽が眩しくて日を細める 隊長を探しに部屋を後にした







(伝えたいことがある)