一番隊隊長 不死鳥のマルコ ポーカーフェイスでクールだが 仲間思いの人情深い一面を持つ 白髭海賊団のブレイン的存在 「みんな何も分かっちゃいない」 早朝にカモメが運んできたニュースペーパーに向かってポツリと呟く 窓の外 海は青白い明るさを含んでいる もうすぐ朝日が昇る頃合だ 冷めたコーヒーを一口口に含み 山済みになっている機密文章の解読を再び開始した * * * 昨日の夕方 夕食の匂いがキッチンから香る頃 我が一番隊の隊長に呼び出された 隊長の部屋には暗号で書かれた海軍の機密文章の書類が山済みになっていた それは優に50cmを超える厚み 「、この書類を明日の昼までに解読しとけぃ」 ねぎらいの言葉もなく 部屋に呼ばれて第一声がこれ ありえない っつーかお前はやらないのかよ!! と心の中で突っ込んだ 「・・・・何人かクルーを借り出しても宜し」 「俺はお前に頼んだんだよぃ」 言い終える前に一刀両断 「・・・畏まりました」 「なんか不満そうな顔だねぃ」 「もともとこういう顔です、では失礼致します」 グラグラと今にも崩れ落ちそうな書類の山を崩さないように慎重に運ぶ 無事に部屋に着いて ドサリと書類を机に置いた はぁ・・・と1つため息をついて コーヒーを煎れる 不満を言っている時間は無いだろう これから完全無休の徹夜をしたって終るかどうかギリギリの量 煎れたてのコーヒーを一口飲んで 腕まくりをして机に向かった 今まで任された仕事でこなせなかった物は無い 出来なかったと報告はしたくない * * * 外は朝日が昇り清々しい朝を迎えていた 早起きのクルー達が食堂に向かう足音が聞こえる 書類も残り7枚 どうやら期限には間に合いそうだ そう思うと一気に緊張の糸が解れ 急に空腹を感じた (そういえば昨日の夕飯食べてないや・・・) 朝食を取ってもう一頑張りしようと思い 腰を上げた瞬間 コンコン とノックの音の後にサッチの明るい声が届いた 「おーい、 生きてっかー」 ドアを開けると 焼きたてのパンと湯気を放つスープ、剥きたてのオレンジを持ったサッチ 「おはよ、サッチ」 「お、思ったより元気そうだな」 「うん、まぁね・・・ってそれもしかして」 「あぁ、に持ってきてやったんだ。 どうせ昨日の夜から何にも食ってねーんだろ?」 「ありがとー!! もうお腹ぺこぺこで死にそうだったの!!」 小さな床置きのテーブルにサッチが持ってきてくれた朝食を並べる サッチにお礼のコーヒーを煎れ 15時間ぶりの食事にありついた 「あーぁ、私本気で移動願い出そうかなぁ・・・」 ポツリと言葉を零すと サッチは一瞬目を大きく開いた後 ニヤリと笑った 「4番隊に来るか?」 「それいいね! サッチのとこならこんな過剰労働強いられ無さそうだし」 「丁度、今 一人空きがあるんだよ」 「本当!じゃぁ私4番隊に移動したい!!」 「でもマルコが首を縦に振るとは思えないなー」 「そぅ? マルコ隊長って私に対して無関心っていうか、興味ないって感じだからOKしてくれると思うけど」 「まぁ、の気持ちが第一優先だからな」 「そうそう、あんな人使いの荒い横暴上司の下はさっさと去りたいの!」 「だってよ、どうするよ、マルコ?」 「・・・・は?」 テーブルを挟んで向かいに座るサッチの瞳を見る 少し上を向いた眼球には人の立ち姿を写していた 頭の回線が火花を放ってショートした 体を巡る血は瞬く間に凝結した ゆっくりと腰を上げ じゃぁ、後は二人で話し合ってくれ そういい残してサッチはパタンと扉を閉めた 静かな部屋に足音がヒタヒタと鳴る 私の後ろに立っていたマルコ隊長は至極不機嫌そうな顔をしながら さっきまでサッチが座っていた場所に腰を下ろした ・・・・・・・・死にたい!! 「、お前は本気で4番隊に移動してーのかぃ」 いつもより幾分低めの声色に息を呑む こんな雰囲気で はいそうです なんて言える勇気は私には無い 「いや、その・・・あの・・・」 今まで散々無理難題を押し付けられる度に 心の中で吐いた不満は1つとして言葉には出来なかった その代わりに溢れたのは大粒の涙だった 「泣いてたって分からねぇよい」 仮にも女が目の前で泣いているというのに 表情1つ変えず吐かれた言葉 どうして他の隊員には思いやりが合って優しいのに どうして私にはそれをほんの一握りでさえ与えてくれないのだろうか だって私は一番隊で誰よりもあなたの役に立っているというのに 「だって、他の、隊員には・・・すごく優しい、のに」 「のに、なんだよい」 「わ、私、すごく・・・役にたってる、のに」 「のに、なんだよい」 「たいちょ、全然・・・優しく、ないじゃ・・・ないです、か」 嗚咽を堪えて途切れ途切れに発する言葉 何て情けない姿 仮にも一番隊の副隊長であるのに こんな醜態を曝してしまうなんて 本当にどうしようもない と呼ばれて顔を上げると手招きをするマルコ隊長 働かない頭で ゆっくりと立ち上がって近づくと腕を引かれて抱きしめられた 鼻腔をくすぐったのは 香水と煙草が入り混じった甘くて苦い香り 「、お前は本当によく働いてくれるよぃ」 「たいちょ」 「俺はこの船で一番の切れ者だと思ってるよぃ」 「あの、」 「今回の書類も殆ど終らせちまって・・・」 そろそろと顔を上げると 少し意地悪そうに だけど優しい眼差しで見つめる隊長 頑張ったじゃねぇか と言って大きな手で私の頭をクシャクシャと撫でた そしたらさらに涙はボロボロと流れ落ち 隊長の刺青を濡らしてしまったけど 隊長は怒らないでそっと背中を擦ってくれた 「で、は4番隊に移動したいのかよぃ?」 私の頬に手を添えて親指で涙を優しく拭ってくれた隊長は どうなんだよぃ? と甘い声で囁くから 私は首を横に大きく振って 隊長の胸に顔を埋めてしまった は褒めて欲しかったのかよぃ と問われ首を縦に振る 優しくされたかったのかぃ と問われ首を縦に振る 頭の上で クッ と咽の奥で笑うような声が聞こえた その後に優しく口付けされ 腰を引き寄せられて一言 「これからは希望通り、褒めてやるし優しくしてやるよぃ なぁ ずっとそうして欲しかったんだろぃ?」 口角を上げて口元だけで笑う隊長 ギラギラと光る瞳に見つめられ また私は首を縦に振ってしまった |