「もうすぐだね」
「あー そーいえば そーだったな」
関心の無さそうな声色 他人事のような言い方
ヘラヘラ笑う 昔からそうだった
何にも執着しない 何にも固執しない
奪われても追わない 来るものは拒まない
仕事に対しても 物に対しても 女に対してもそうだった
実力の範囲内で 力量の範囲内で
常に余裕を持って 常に余力を残して けして汗をかかない生き方
煙草の煙のようにゆらゆら ゴーグル越しの視界のようにグレーな生き方
でも
今回はそうもいかないでしょう だって貴方の命が懸かっている
今回はそうもいかないでしょう だって確実に犯罪者になってしまう
今までゆらゆら あやふやな生き方をしてきた貴方は どうやら困惑しているみたい
だって 普段より煙草の減りが早いじゃない お酒の量が増えたじゃない
「マット 煙草 いい加減それくらいにしときなよ」
「あー これで最後ね」
不安なんでしょ 全力で挑むことが 怖いんでしょう 白黒ハッキリさせることが
心細いんでしょう 裸眼で鮮やかな世界に踏み出すことが
もし 踏み出した世界が自分の予想と 希望と 異なる色だったとしても 後戻りは出来ないから
救ってあげようか 助けてあげようか 支えてあげようか
その為にマットを探したのよ その為にマットの傍に居たのよ
「マット」
「なんだよ」
ゲームを止めて 煙草を消して ゴーグルを外して くだらないプライドを捨てて
泥だらけになって 汗だくになって 死に怯えて 生にすがり付いて
そして 一言 たった一言 「恐い」 と白状すればいいよ
そしたら 抱きしめてあげる 隣にいてあげる 貴方の望む配色を彩ってあげる
「マット」
「・・・俺、 本当は怖いんだ」
平静を装っているつもりだったらしい バレバレなのに 馬鹿
もっと早くに言えば もっと早く楽になれたのに
マットの顔に 胸を押し付けて 抱きしめる
ほら 落ち着くでしょう 抱き合っていると 私と繋がっていると
ねぇ 出発する その瞬間まで 私の中で癒してあげようか
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(死ぬことを怖がって 抗って 私の為に)