近すぎて気づかない ということはよくあること 眼鏡を探していて実はかけていた とか もちろん恋愛においても灯台下暗しなんて きっとよくあること・・・ * * * 「信じられない!ばっかじゃないの!あの三流男!」 穏やかに航海を進めるモービーディック号 その穏やかな船上でドカドカと音を立て 右手にラム酒の入った瓶を 左手にグラスを2つ持ち 毎度お馴染みの文句を撒き散らしながら 二番隊隊長 火拳のエースの部屋へと足を進める 「ちょっときーてよ エース!!」 ノックも無しにバンッ! と勢いよく扉を開けば 床で寝ていた男が眠そうに身を起こす (なんでこいつは場所を考えずに眠れるのだろう・・・) (けど、今はそんなことどうでもいい。 兎に角、聞いて欲しい、言わなくちゃ気がすまない!) なんだよ今回の男は何が不服だったんだ? 寝起き特有の掠れ気味の声で問いかけるエース ベットに腰を掛けたエースの横に自分も座る 持って来たグラスを渡しラム酒を注ぐ まぁ、取り合えず飲んで と言って酌をする あぁ いい香り 少し気持ちが落ち着いたかも サンキュ と言って注がれた酒を美味そうに飲むエースを確認してから 口を開いた 「例えば、エースなら彼女に頼られたい?」 「そりゃ、俺でなくとも男なら頼りにされてーんじゃねぇの?」 「でも、例えば・・・彼女の方が強かったら頼れないじゃない」 あぁ 思い出したら腹が立ってきた あの野郎! グイッとグラスのラム酒を一気に咽へ流す 「今日言われたの。もっと頼りにしてほしいって」 「そういわれた瞬間、頭にきちゃって・・・だって、私だって頼りたかったの。でも無理だった」 「彼は私より全然弱くって、海賊としての経歴も浅い、どこをどう頼れっていうの?」 「私に文句を言う前に、お前が改善しろっつーの!!」 息継ぎもせずに不満を吐き出した為か 少し息が苦しくて 音を立てて息を吸った 毎度毎度私の愚痴に付き合ってくれるエースは 隣で酒を飲みながら思案顔をしている くるくるとグラスを回しながら 揺れるラム酒に視線を注ぎながら 一言 「まぁ、頼りにならない奴を頼るってーのは無理な話だ」 「でしょ!?だから私に非は-------------「だが、にも非はある」。」 まさかの台詞に言葉が詰まった そして少ーし むかついた けど黙って聞こう 「ど こ が ?」 「自分より弱いと知っていてそいつと付き合ったことだ」 確かにエースの言うことは事実 けど 私より強い男なんてそういないのだから仕方ないじゃないか 「付き合った相手に劣等感を感じさせるお前にも汚点はある」 前の前に付き合った彼は 「君の美しさに心を奪われた!」 と言った その彼は一ヵ月後に 「君と並ぶと僕が霞んでしまう」 と訳の分からない事を言われ別れた 前に付き合った彼は 「君の無邪気さがほっておけない」 と言った その彼は一ヵ月後に 「もっと甘えて欲しかった、君は完璧すぎて僕は必要ない」 と言われ別れた 今回の彼は 「儚げな君の支えになりたい!」 と言った そして今日 「もっと頼って欲しかった、君は強いから一人でも生きていけるね」 と言われ殴っておいた 私が悪いのか? 他人に賞賛される容姿は生まれつきだし 強いのは絶え間ない訓練の賜物だ 色々なことを要領よくこなしてしまうのは 幼い頃から親無しで生きてきた為だ じゃぁ どうすればよかった? 「じゃぁ、エースは私にワザと弱弱しく、頭の悪い女を演じて男を立てろとでも言うの?」 涙が滲む いつもいつも振られては怒ったフリをして エースに愚痴をこぼしていた けど 本当は悲しかった 私だって他の女の子のように大好きな彼氏を作って 守られてみたかった それは難しいことなのか どうして私だけ上手くいかないのか 泣き顔を見られなくなくて 腰を上げた 話は終ってねぇよ と言って腕を掴まれた 強い力で引っ張られエースに倒れこむ 「ははっ、。お前が泣くなんて久しぶりだな」 人の泣き顔(仮にも女)を見て 他に言うことは無いのか! 「うっさい!馬鹿!エースが人の傷口に塩を塗るようなこと言うから・・・」 やばい 言葉にすると本格的に泣きそう 「俺が言いたいのはそうじゃねーよ」 エースの両手が私の腰を掴む 暖かくて大きな手だ 布越しに伝わる熱が心地よい 「、お前が、自分より容姿端麗で強くて賢い男と付き合えばいいんだ」 「そんな男知ってるなら紹介し--------------「俺と付き合えばいいだろ」・・てょって、え?」 腰に回された手に力を込められて 体が密着する エースの片方の手が私の頭を撫でる 目の前に広がるエースの体からは太陽の匂いがした 「だって・・・・」 「だってじゃねぇよ、俺ならお前と別れる理由はねぇだろ?」 「そっ、そうだけど・・・でも」 「でも、なんだよ?」 こんなのずるい だって目の前のエースはなんとも男らしく大人な表情で 真っ直ぐに見つめてくる これじゃぁ 断る理由が見つからない これじゃぁ 恋に落ちてしまう ほら、断る理由なんてねーだろ そう言って体を反転し エースに組み敷かれる 「お前から気づくのを待つつもりだったが・・・お前は気づかなそうだし、まぁいいか。」 エースの大きな手が頬を撫でる 鳥肌が立つ 続きを待ち望む自分が居る 「、お前は俺のことが好きなんだ」 頬に添えられた手は フェイスラインを滑り 首筋をつたって鎖骨をなぞる 「彼女にしてやろうか?」 そういって 不敵に笑うエース あぁ 困った こんな気持ち 今まで感じたことが無い 無断で覆いかぶさるこの男に 頼りたいと 守られたいと 仕舞いには荒々しく抱かれてみたいなど ゴクリと咽が鳴る 自分のやましい心が覗かれそうで 目を閉じる 「おい、。チャンスはいつだって一度きりだ」 首筋に感じるのは エースの舌の感触 「目を見て答えろよ」 恐る恐る目を開く 目の前にはエースの整った顔 きっと私は赤い顔に涙目だろう でも今は、 「彼女に・・・してほしい」 震える声で告げると 満足そうに弧を描くエースの唇が降ってきた 「よく言った、」 優しい声色で そんな俺様な台詞を囁かれたら もう 溶けて落ちる以外術は無いでしょう |