「映画が、見たいよ」



がポツリと言った テレビの機械音だけの静かなこの部屋では その小さな呟きでさえ良く響き渡った

「今、見たばっかじゃねぇか」 そう返すと 「そうだね」 とまた小さな声で答える

今日は珍しく二人の休みが重なった 映画が好きなの提案で 今日は俺の部屋で映画鑑賞会になった

そしてつい先ほど 画面でエンドロールが流れ そして最後に音が消え 映画の終わりを告げた

ラブストーリーを交えたアクション物だった 渋めの俳優と美しい少女の出演するアン・ハッピーエンドの映画

当時 その映画の上映期間中は丁度海の上だった

映画館で見ることが出来なかったが 船の上でごねていた記憶は もう大分昔の物だ

あまりにも見たがるので DVD化されてすぐ買ってやったんだ



「面白くなかったのかよぃ」

「いや、面白かったよ、すごく」



そう言ったの笑顔はいつも通り 穏やかで美しかった

隣に座っていたは 俺の左腕に自身の細い両腕を絡め 俺の肩に小さな頭をコテンと乗せた



「唯、寂しいなって思ったの」

「まぁ、ハッピーエンドの話じゃねぇんだから仕様が無いだろぃ」



そう言うとは絡める腕にぎゅっと力を入れて 顔は隠す様に角度を変えた

その為 の表情は見えない



「ストーリーのことじゃないの」

「じゃぁ、何が寂しいんだよぃ」



しばらく黙って は絡めた腕を解き 顔を上げた

その表情は何だか今にも泣き出しそうな そんな顔をしていた



「見飽きちゃったことが、寂しい」

「じゃぁ、新しいのを幾らでも買ってやr」

「そうじゃないの」



俺の言葉を遮って 静かに叫ぶように言葉を放つ



「じゃぁ、どうしろってんだい」

「・・・あ、あのね」



言いにくそうに 歯切れの悪い口調ではポツリポツリと 言葉を紡いだ




この映画は私の一番好きな映画で 今までどんな話題作を見てもこれを超える作品は無かったの

今も昔もそしてこれからもこの映画は 私の中で不動の地位に君臨するの

でもね 好きすぎて何度も何度も繰り返し見てしまったから 内容も台詞も表情も全てを覚えてしまって

大好きなんだけど 見ても何も感じない・・・ 見飽きてしまったの

だから 他の映画を見てみるんだけど やっぱり満たされることは一度もないの




ゆっくりと話すの瞳は 徐々に潤んでいき 最後の言葉を口にする時

ついに一滴の涙が 瞬きによってキラキラと零れ落ちた

ポツリと床に落ちる音 テレビの機械音だけの静かなこの部屋では その小さな音でさえ良く響き渡った

の言わんとすることが伝わる だから



「俺だって、寂しいよぃ」



そう言って の細い体を思い切り抱きしめた 1ミリの隙間も生まれないように 強く 強く

そうでもしないと 寂しさの波に飲み込まれてしまいそうだった



「ねぇ、マルコ。 私は今も昔もこれからもマルコだけが好きよ」


の吐息が刻まれた誇りを熱くする


「今だって、言葉に出来ない位愛しているの」


背中に回された小さな両手が キュッと俺のシャツを握った


「それなのに、変わってしまうのは・・・・何で、かな」


とうとう本格的に泣き出してしまったらしい 声が震えている


「大丈夫だよぃ」


そう囁いて 頭を撫ぜる 胸に落ちるの涙は暖かかった


「どうにか、・・・してやるから」


どうにかする方法なんて検討が付かなかった けれど どうにかしたかった


の小さな泣き声 テレビの機械音だけの静かなこの部屋では その小さな嗚咽でさえ良く響き渡った





俺達が出合って10年 恋人になって9年もの歳月が流れた

今も昔もそしてこれから先も 互いだけを愛し続ける

それなのに 今と昔の愛は ゆっくりと静かに形を変えていった

途中で気づいたけれど 原因も打開策も見つからなかった

だから 互いに寂しさに飲み込まれないように 一層身を寄せ合って愛し合ってきた

それはこれからも変わらないはずだった けれど 愛しいが耐え切れず涙を流した

どうやら変革の時が来たらしい

どうにかしなくては と頭で何度も復唱しながら をきつく抱きしめた



 * * *



電源の落とされた真っ黒のスクリーンは 抱き合う恋人を映し出す

ピクリとも動かずに 唯 ぎゅっと身を寄せ合う男女

展開を見失ってしまった恋人達は それでも 抱き合って 重なり合って 交わる他に術は無かった

エンドロールを流すのは まだまだ先だというのに