買ったばかりの高い傘だったのに
コンビニでビニール傘を買うのも癪だったから
ずぶ濡れになりながら 暴風雨の中 家路を急いだ
アパートの横の至極細い隙間を通った
普段は人なんか通らないし 第一 道ではない
建物と建物の隙間 というのが相応しい
通るといったら野良猫くらいだろう
でも その日 今まで一度も通らなかった その隙間道を通ったのは
一瞬でも 雨と風を防げると思ったから
そう そして そこで 黒猫を拾った
「ちょっと メロ!!」
冷蔵庫を開け 冷やしておいたビールが無いことに気づいた
「また勝手に人のビール飲んだでしょ!!」
仕事から帰ってきて 疲れた心と体に冷たい一杯・・・
私のストレス解消の嗜好品を また勝手に!!
「うるさい 金なら払うから騒ぐな・・・」
パソコンから目を離しもせず 反省の色は皆無
ましてや 私が悪いかの言い方
「そーゆー問題じゃない!!今飲みたいの!!いーまー!!」
ズカズカとメロに詰め寄って 肩に手をかけ 此方を向かせる
「買ってきて!」
目を合わせて睨んでみる
するとメロは フッ と嘲笑い
「いい加減学習しろよ 俺がそう言われて買いに行ったことあるか?」
大人びた綺麗な顔で 意地悪そうに言い返す
「〜〜〜っ!!馬鹿!!」
言っても無駄なことは百も承知
でも この怒りを解消したくて詰め寄ってみたけど
余計にイライラが募りそうだったので 仕方なく ミネラルウォーターで代用した
小さなキッチンから リビングで何やら仕事をしているメロを観察する
メロと一緒に暮らすようになって約半年経った
あの暴風雨の夜 瀕死のメロを部屋に運び 彼の火傷に言葉を失った
上半身の半分は酷い火傷で爛れていたが 病院は駄目だ と言ったメロ
その時の殺気は 負傷した野生動物が 人間を威嚇するかの様だった
うろたえる私に 意識の朦朧とした彼が 処置の仕方を口頭で指導し
それにしたがって 彼の火傷の処置を施した
一通りすんだ頃 窓の外から朝日が差し込んできた
ようやく冷静さを取り戻した私は 傍らで眠っている彼の寝顔を見つめた
眠っていても伝わる意思の強さ 命の淵でも冷静さを失わない
会話から伝わる膨大な知識量 的確な指導力
純粋に 私はメロに 強い関心を持った
ペットボトルを冷蔵庫にしまい ソファーに勢いよく腰掛ける
反対側に座っていたメロの体が揺れた
「・・・重そー」
「シャワーの後に体重量ったけど1Kg減ってたもん」
フフンッ と小さな勝利に酔う
くだらない・・・ という目でちらりと視線を移したが すぐにPCに戻す
ベランダからひんやりと澄んだ秋の夜風が差し込む
同じ空間を共有してるけど お互いに干渉し合わない
けれど無関心というわけではない この何とも言えない心地よい距離感
メロのタイピングの音 PCの機械音 それらが子守唄のように
私を眠りに落とした
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(幸せな夢を見た)