BlackCat
#06 スクリーン

「いつまで拗ねてんだよ」
偉そうに 面倒くさそうに言い捨てるメロ
「ほら、さっさと新しい電球よこせって」
椅子に立って 普通より高めに作られた天井から 寿命のきれた電球を易々と外した
「おい、!!」
いつまでも機嫌を直さない私に メロがとうとう痺れを切らし 声を張り上げた
一瞬びっくりして ビクッと肩を震わせてしまったところを目撃され クッと控えめに笑われた
(ちくしょー・・・)
椅子に立っている為 見下げる視線が非常に腹立たしい
「はぁ・・・じゃぁ 換えなくていいんだな」
そう言って椅子から降りようとするので 慌てて新しい電球をメロに差し出した
「馬鹿! いいわけないでしょー!」
(報酬のチョコを食べたんだから)
「最初っから大人しく渡せばいいものを・・・」
ブツブツ言いながら手際よく付け そして 新しい電球が光った
椅子をもとの場所に戻しながら 機嫌を伺うかのように話しかける
「自分じゃ届かなくて 今までどうやって換えてたんだよ?」
「彼氏にやってもらってた」
「へー お前にも彼氏なんて居るんだ」
人の趣味も色々だな なんて言いながら ソファーの半分空いた方にドサリと腰を掛けた
「居るんじゃなくて 居たの」
「あー わりぃ」
ちょっとバツの悪そうな表情をされたから 言葉を付け加えた
「いいよ別に だって大して好きじゃなかったんだもん」
スイッチの入っていないテレビスクリーンを見つめながら言った
「それなら付き合うだけ時間の無駄だろ」
真っ暗なスクリーンには大きなソファーと それに腰掛けるメロと私が映っていた
「別に嫌いじゃなかったし カップルってそんなものじゃない? 本当に相思相愛の方が珍しいって」
スクリーン越しにメロが目を見開いて 此方を驚いたように凝視している
(目 でかいなー・・・)
「・・・意外だな」
ポツリと一言 心の奥底から零れ落ちたような低い声
「何で?」
私達を映し出すスクリーンに向かって問いかけた
「何ていうか・・・もっと夢見がちな感じだと思ってた」
「そーゆーメロはどうなのよ?」
「俺は女なんて好きにならない」
「えっ!! まさかゲイ!?」
思わず横に居るメロに詰め寄って 勢いよく問い詰めた
「馬鹿 ちげーよ」
何でそうなるんでよ と言いながら詰め寄る私の額を押し返した
「じゃぁ 何? 何で? 勿体無ーい その気になれば絶対もてるのにー」
「面倒だから」
メロの回答を聞いて至極納得共感し それなら仕方ないよね と肯定の言葉を送ると
またもや 意外だな とメロは呟いた
メロが持つ私のイメージに 私が意外性を感じた
今まで周りからそんな印象を持たれた事は無かった
どちらかと言うと クールとかサッパリしてると 友達からは言われてきた
「そんな風に言われるの初めてかも」
本当に人って色々ねー と言いながら テレビのリモコンを取りに立った
「へー それじゃぁ 本当はどっちが正しいんだ?」
「んー そりゃ 多数決でメロの印象の方が間違ってるんじゃない?」
「俺は合ってる」
「じゃー聞かないで下さい」
馬鹿馬鹿しい 今日はメロにおちょくられてばっかりだ 深追いはやめておこう
リモコンに手を伸ばす さっさとテレビのスイッチを入れて 話を逸らしてしまおう
は素直で純粋で単純だ」
また私をからかうつもりなのか そう何度も同じ手に引っかかるとでも思っているのか
いい加減にして そう言い返そうと振り返ったのに
真剣な瞳に ありがと と短いお礼を述べてしまった
「メロだって 一見冷たそうに見えるけど 本当は優しいよね」
「そんな風に言われるのは初めてだな」
本当に人って色々ねー と言いながら ソファーに戻る
「へー それじゃぁ 本当はどっちが正しいの?」
「そりゃ お前が間違ってる」
「私は合ってますー」
「なら 聞くな」
ソファーの両端に座って向かい合いながら 互いにふっと笑う
そして視線を外して 高い天井で一際明るく光る電球を見つめながら
「メロは優しくて暖かいよ」 
そう言うと 少し黙ってポケットからチョコを取り出し
パキッと気持ちのよい音をたてながら そうか と返事をしてくれた



* * *



その後 日が傾いて部屋がオレンジ色になって メロは奥の部屋に戻った
その後 日が落ちて部屋が薄紫色になって メロは出かけてくると言って部屋を後にした
その後 月が照部屋を銀色に照らして メロの居ない部屋は静まりかえった
唯私は 色が変わっていく部屋で 気づかされた真実に 思考を張り巡らせていた
メロの印象は正しいかもしれない
思い起こしてみれば 記憶の中の昔の私は素直で真っ直ぐだった
それはまるで初めて恋をした女の子のように純粋で
そして そんな私が居る記憶は半年前から始まっていて それはちょうどメロに出会った時期



好き



頭をよぎる二文字 今までのあやふやな感情がリンクする
だから メロと喋っていると楽しくてずっと続けばいいのに そう思ってしまうのか
だから メロの居る家に戻る足取りが 軽くなってしまうのか
だから メロと離れたくなくて 来年の約束を取り付けてしまったのか
だっだらメロはどうだろう
優しくて暖かいメロも あの暴風雨の夜から生まれているのだろうか
初恋に戸惑う男の子のように 私を映し出してくれているのだろうか
メロが帰って来たら聞いてみても いいだろうか





(気付いてしまったのは私だけ?)