サクサクと足音が近づいてくる それがぴたりと止むとドアが開く 秋の冷たい夜風が流れ込んだ
風呂上りにバニラフレーバーの紅茶を淹れて のんびりとベットでくつろいでいた私の横に
ドサリと腰を下ろす男からは土と海の匂いがした 少し痛んだ紅い髪は以前より伸びていた
「前髪、そろそろ切ったら?」
「おいおい、半年振りに会った恋人に第一声がそれかよ」
お前らしーよ そう言ってベットに倒れこんだシャンクス
ギシ とスプリングが軋む 大丈夫 私の心は軋んではいない まだ
「あら、私のこと恋人って言ってくれるのね」
茶化すような声色で囁いて シャンクスの髪を掬う
毎日潮風に曝されているそれは 水気が無く乾いていた
「そりゃ、恋人でなきゃわざわざ会いに来ないさ」
右腕を私の首に回して 胸元に引き寄せられる
「シャンクス、胸元に小さい傷が増えてる・・・」
左鎖骨の少し下に うっすらと小さな傷跡 半年前は無かった
「あぁそりゃ、髭剃ってる最中にヤソップの試し撃ちの的にされて、手が滑っちまったんだ」
「ヤソップさんも元気そうで何よりだわ」
「おい、俺の心配よりヤソップか?」
「オッサンの嫉妬はみっともないわよ」
顔を見合わせて互いに小さく笑うと どちらともなく唇を重ねる
ベットに二人で横になって シャンクスの右腕を枕にして 色々な話をする
冒険の話 クルーの話 私の日常 会えなかった時間を互いに埋めたくて 笑いあって言葉を交す
けど それには限界があって そう感じると 伝えきれない思いを吐き出す様に シャンクスは私に覆いかぶさる
そうして 窓の外が明るくなるまで何度も何度も 重なり合っては 想いを交す
この関係を続けてどれだけ時間が経った? 初めてこの村に赤髪海賊団が停泊したのは確か4年前だ
あれから 1ヶ月おき 2ケ月おき 3ケ月おき ・・・ 半年おき 会いに来てくれる
島から離れていけばいくほど 会える間隔も離れていく
船に乗りたいと言った2年目の夜 ごめんな と言ってすごく辛そうな表情をしたシャンクス
私は 彼のその表情を見て もう二度と言わないことを胸に誓った
他の船員にも家族が居る者もいて みんな我慢しているんだから 船長といえど特例は許されない
皆 シャンクスを慕っているから 船員は許してくれるだろうが 彼自身はそれを許さないだろうし
そんな彼だから 私は焦がれた でも 時折思う
彼は一生海賊で 海を航海し冒険を続ける
私は一生この村で 穏やかに暮らしながら彼を愛し続ける
その2つの生き方は 永遠に愛で繋がっている けれど 永遠に交わることもない
疲れた身体で 時間を割いて 会いに来てくれる彼に 悲しい顔をさせたくなかった けど
流れ出た涙を止める術はなくて それを舌で拭う彼もまた 泣きそうな顔をしていた
シャンクスは賢い だから 私が抱える救い様のない不安を 理解しているのだろう
そして 彼もまた その不安を抱えているのだろう
「ごめんな、」
繋がったまま 動きを止めて頬を撫でる右手も 潮風のせいか やっぱり乾いていた
「俺は、普通の幸せを与えてやることは、きっと、一生出来ない」
今 気づいた シャンクスは睫毛も 紅い
「それでも、お前を手放すことも、出来ないんだ」
シャンクスの逞しい首に両手を絡める 顔を引き寄せて肯定のキスをひとつ
と名前を呼んで 眉間に皺を寄せて また律動を始める ベットが軋む 心も軋む
それでも 手放すことの出来ない私は 半年振りに与えられる快感を 余すことなく拾い集め
目の前で揺れる彼の姿を目に焼き付けて 匂いを感じ取って 五感の全てで彼を記憶に刻む
そうやって 蓄えた沢山の記憶で一人の時間を食いつなぐんだ 辛い飢餓感を回避するために
熱に揺られながら向けた視線 窓の外 水平線に光が見える
そうして また 別れの朝を迎えるんだ
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