ふと、目を覚ますとそこは 狭く薄暗いところで
出口を探して暴れるが見つからず 力任せに壁をぶち破ると
明るい太陽の日差しと 潮の匂いが鼻をかすめる
周りを見渡すと あたりは血の海 そこに横たわる女は母親で
俺はその母親のぽっかり空いた腹の穴から この世に生れ落ちた
誰からも喜ばれることなく 実の母親の命を奪って
身体を流れる半分の血は 俺から多くの自由を奪っていく
日陰でひっそりと生きることを余儀なくされた
甘えることなど許されなかった
自分を守る為 強くならなくては生きていかれなかった
窮屈な世界が息苦しくて 駆られるように海へ出た
小さな船から広大な海を眺めていると 後ろから声をかけられる
「海に見せられたお前は、やはり俺の息子だ」
(ちがう!!)
「血は拭えん、お前の生きられる場所は他にない」
(ちがう!!)
「お前が自由になれる世界はここだけだ」
(ちがう!!)
「海で生きて海で死ぬ、それが海賊王・ゴールド・ロジャーの息子である、お前の人生だ」
(俺は・・・・!)
* * *
目を開けると見慣れた天井に安堵した 外はまだ日が昇っていないようで薄暗い
胸糞悪い夢のせいで 寝汗をかいたのだろう やけに体がべたべたして気持ちが悪かった
(・・・夢か)
はぁ・・・と安堵のため息をつくと、湿ったベットから起き上がり 壁にかけられたひび割れた鏡に自分の背中を映す
そこには堂々と白髭のマークが掘られている
(俺は、白髭の息子だ・・・)
(風にでも当たって頭を冷やすか)
甲板に向かうとそこには 夜に行われた宴の跡が当たり一面に散らばっている
空き瓶、割れたグラス、空っぽの食器に大量の肉の骨・・・
それらを上手くかわしながら船首近くの手すりに近づく
海もまだ眠っているようで 波の音はまるで海の寝息のように静かだ
(それにしても、嫌な夢を見たな・・・)
あの夢を見るのは初めてではない 過去に何度も同じ夢を見ては、その度に魘されて目を覚ます
皮肉なことに、この世で一番憎い男と同じ道を 自分が歩んでいる
自由を求めて海に出て その海に父親の面影を抱き そしてその残像に自由を奪われるとは
なんとも滑稽で救いようがない 海ですら 俺の自由に生きられる場所は無いというのか・・・
俯いて 海の消えては生まれる小さな波を眺めていると 後ろから声をかけられた
「エース隊長がこんな早朝に起きているなんて、今日は雪が降りますね」
振り向くと 肩にショールをぐるっと巻き、少し寒そうにしているがいた
「お前こそ、こんな時間に何やって・・・」
そこまで言いかけて、自分の放った言葉に後悔した
「お父さんの書庫に忍び込んでロジャーに関る資料、読み漁ってたんです」
水を得た魚のように饒舌に語りだすを尻目に 俺は小さくため息をついた
「やっぱり、ゴールド・ロジャーは偉大な男です」
はあの処刑を見て、海賊に魅せられた人間の一人で
「何が偉大か、例を挙げるとしたら際限ないんですけど・・・」
この船に乗った理由も、「ロジャーの生き様を調べ、自分も彼の様な生き方をしたい!」だったらしい
「やっぱり、一番譲れないのは牢獄で残した言葉ですね」
コイツのロジャーに対する熱弁を 今は寛容に聞いてやれる自信がない
「何でも、ロジャーには子供がいるそうなんです!!」
(やめろ)
「記録によると、彼は牢獄の中で、長年の敵であった海軍の男に」
(黙れ)
「自分がこの世を去ってから生まれるだろう子を、災厄から守るよう託したんです」
(心配ならば、何故自身で守ってくれなかった)
「子の母親も子を守る為、海軍の監視が無くなるまで子をお腹に宿したまま守り抜いたんですって!」
(そして、力尽きて死んだんだ)
「つまり、海賊王・ロジャーの血を受け継ぐその子供は、大いなる愛に守られ」
(誰も守ってなどくれなかった)
「この大航海時代、強く自由に生きる為に産み落とされた時代の申し子なんです・・・」
(ならば、どうしてこんなにも苦しい?)
ダンッ・・・ と静寂を切り裂くような音が甲板の床に響く
俺に押し倒されたは、強く背中と頭を打ち付けたようで 顔を苦痛に歪めていた
「だ・・・ま、れ」
息が上手くできない 咽が渇いて張り付く 声が掠れる
お前に何が分かる? 誇張され綺麗に綴られた文献に 真実などありはしない
真実は 美しくなど無い 愛など無い 自由など無い 何も----------------
「ゴールド・D・エース」
ポツリ・・・ の口から零れ落ちた言葉は俺の思考を凍らせた
(何故、お前が知っている)
そう問いかけたかったが言葉を生み出せない
唯 大きく目を見開いて 自分の真下に組み敷かれる女を見つめる
内臓が一気に冷やされ 身体を劫火で焼かれたような感覚
「だから、どうか・・・苦しまないで下さい」
そう言っては 細く白い手を俺の頭に伸ばし 癖の強い髪をやんわりと撫でる
「なん、で・・・」
やっとのことで搾り出した声は何とも弱々しくて
「貴方は、自由です、愛されています、そして、この世に必要とされています」
潤った大きな瞳が俺を真っ直ぐに映し出す コイツのこんな瞳は知らない
「お前は、・・・誰、だ?」
普段のとは違う顔で微笑むこの女は まるで女神のようで
「貴方のような境遇で、私もガープさんのお世話になった一人です」
お互い派手な親を持つと苦労しますね と言って笑う表情はいつものなのに
「そして、私もガープさんに託されてきました」
コイツの今にも折れそうなほど細い手首を掴む 俺の腕が熱を孕む
「成長した貴方が、偉大な父の面影に囚われていたのなら」
その熱が伝導して 体全体に行き渡ると
「聞く耳を持たない馬鹿野郎に、伝えて欲しいと」
熱にほだされた身体でを強く抱きしめた
すると の細くひんやりした腕が背中に回される
「エース、世界は貴方を愛しています」
* * *
目を開けると見慣れた天井に安堵した 外はもう日が昇っているようで明るい
汗をかいたのだろう やけに体がべたべたして気持ちが悪かった
湿ったベットから身を起こすと 隣に眠るから布団が剥がれ 白い胸元が露になる
あの後---------- を抱きしめるだけでは抑えきれない感情を、まるで理性の無い動物のようにぶつけてしまった
自分勝手で強引な行為だった 愛の言葉も告げていない 触れることを許された関係でもない
それにも関らず 一切の抵抗を見せず 与えられる刺激をひとつ残らず感じとり 悦び鳴き従うに
どうしようもない程、征服欲と性欲を感じてしまい どうしようもない程、愛情と安心感を抱いてしまった
数時間前までは絶望の淵に立っていたというのに 今では幸福の絶頂に立っているかのようだ
夜明け前 の言葉に 表情に 切り離された男の亡霊はもう居ない
もう二度と あの悪夢に魘される夜は来ないだろう
手を伸ばしての黒く長い髪を撫でる 手触りは湿気を含んだシルクのように艶やかだった
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