海賊を職業にしていた父親の顔をはっきりと思い出せない けれど ぼんやりと脳裏に浮かぶ父親は

温かく包み込んでくれるような笑顔をする人だった

職業柄 いつか父親が死ぬかもしれないことは 幼いながらに分かっていた

だから その知らせを聞いた時 深く悲しんだが 私も母も取り乱さなかった

父の命を奪ったのも又 同業者であることを後日 風の噂で知った なんでも赤髪海賊団らしい

名前が分かれば話は早い やることは1つ 敵討ちだ

鍛錬に鍛錬を重ね その後更に 鍛錬に鍛錬を重ね 様々な武術・剣術を身につけた

そして20歳の誕生日に生まれ育った村と母のもとを去り 海に出た 父親の敵を取るために・・・

赤髪海賊団は有名で すんなり見つけることが出来た

こっそりと船に乗り込んで甲板で間抜け面を曝して眠っている大頭

赤髪のシャンクスの寝首を掻こうと詰め寄ると 突然目を見開き 首根っこを掴まれ

摘み上げられた バタバタと手足を動かすがまったく届かない さらに

船長の命を奪おうと敵が乗り込んできたと言うのに 船員誰一人として手を貸そうとしない

仕舞いには 「お頭、あんまいじめんなよ〜」 と小馬鹿にされる始末

そう言葉を発した船員の方に顔を向けガンを飛ばすと 「おぉ、怖い怖い」 と言いながら船内へと戻っていった

(絶対怖いなんて思ってねーだろ!)

「で、お前は何故俺の命を狙う?」

今までの雰囲気と一変して威圧的な覇気に言葉が詰まった

「あ・・・、ちっ、父の・・・敵、討ちだっ」

まさかここまで力の差があるとは誤算だった

この船上で父と同じ運命を辿るとは何て皮肉 けれど 私だって海賊の娘

父が命を落としたのも 又 私がここで散るのも 力不足 唯それだけのこと 海賊とはそういう生き物なのだ

「敵討ちねぇ・・・父親の名は?」

「マイロ」

その名を聞くと 目を一瞬だけ見開き 口角を上げて 「あぁ、成る程」 と呟いた

やはりコイツが父を負かした男なのだと確信した 確信した瞬間 体が宙に浮き その後海に落下した

(放り投げられた!?)

青い海から水面に顔を出すと 船の上からシャンクスが此方を見下げている

「お前にはまだ俺は殺せねーな、もっと修行するこった!」

唖然 その一言に尽きる 普通 自分の命を狙う輩に修行を進めるだろうか?

それとも私では相手にするまでもないと言うのだろうか? 悔しさと疑問は尽きないが生きているのは儲け物

修行してまた狙いに行けばいい話だ その時後悔したって知らないんだから!

その後 何度も何度も シャンクスに奇襲をかけては失敗の連続だった

そして その度 シャンクスは 「まだまだだな」 と言って私を逃がす



* * *



もう村を出て3年が経とうとしている いつまでも引き伸ばす訳にはいかない 今夜で決める
 
もしいつものように殺そうとしなくても 決着が付くまで引き返さない これが最後!

いつものように ひっそりと息を潜めて詰め寄る 宴を終え船員が夢の中にいったこのタイミングを狙う

(今日は本当にいけるかも! シャンクスは一人離れて馬小屋の裏で眠りこけている)

殺気を消して 短剣を頭上に掲げ 一気に振り下ろす パシッ

乾いた音と共に私の振り下ろした両腕は シャンクスの右手によって拘束された
 
ここでいつもなら 空いた左手で頬を思いっきり引っ張られる けれど

目の前に立ちはばかる男は次のアクションを起こそうとはしなかった

「どうして何もしない!!」

それすらもする価値が無い程 見下されているのかと思うと腹が立つ

食い縛った奥歯がギリッと音を立てる 目の前の男を睨み付けながら見る

月明かりに照らされた表情がいつもより寂しそうに見えた

視線を少しおろすと左の袖が不自然に風になびいている まさかと思った

けれど これ程までに強い男が まさか そんな・・・

脳裏をよぎった予想は 強く吹いた風によって確信に変わった
 
「シャンクス、お前・・・腕が」

「あぁ、昨日失くした」

まるで あ、時計無くした と同じ様なノリで話すシャンクス


「なんで、だって、シャンクスは強いのに・・・・」

ハタハタと無常に風になびく左袖が夢ではないことを現している

「後悔はしていない。新しい時代に賭けてきたんだ」

まるで夢を語る少年のような顔で話すシャンクス お前がよくても私は------------------
 
「ただ、もうの頬を引っ張れないのは残念だがな」

寂しそうに 優しそうに 笑った

涙が頬を伝い顎まで辿り着くと 雫となってポタリ ポタリ と地面に染みを作った

「何故、お前が泣くんだ?」

シャンクスは両手の拘束を解き その右手で涙を拭った

「・・・泣いて、ない」

泣き顔なんて曝したくなかった けれど どうしようもない喪失感と悲壮感が 涙腺を刺激した

「強がりな女だな、お前は」

月を後ろに背負ったシャンクスの柔らかい笑顔

ゆるゆると殺意が溶けていく 否 それはもっと前から溶け去っていた 今 残るのは・・・

「シャンクス、お前はどうするつもりだ・・・隻腕で渡って行けるほどこの先は、」

「俺には仲間が居る」 

迷いの無い言葉 そうだ 彼には素晴らしい仲間が居る

「・・・そうか」
 
私はそれには含まれない 当たり前のこと 分かりきった事実 なのに胸が締め付けられるような感覚



名前を呼ばれて顔を上げると唇に柔らかい感触 目の前には紅い髪が揺れる 雑音が消えてリップノイズが耳に響く

可愛らしいバードキスを何度も何度も重ねて ゆったりと唇を離す

「な、にを、するんだ」

口から出た台詞は建前 本当は嬉しかった 喜んでいた もっと深くと願った

ニヤリと笑う目の前の男は再度身体を屈め 今度は耳元に唇を落とすと
 
「潮時だ、

鼓膜をくすぐる低音に背筋が震えた

「もう、お前に俺は殺れないだろう?」

そうなるように仕組んだのは貴方のくせに 意地の悪い男の背に両手を回すと フッと笑う音が聞こえた

「だって、お前は、」

「そうね、でもそう仕向けたのは貴方でしょう?」

「だが、お前だって途中で気づいていただろ」

「だったら?」

「共犯者だ」

そう言って押し倒されされた 二回目のキスは涙が出るほど深く  私を喜ばせた 片手せ器用に事を進めながら






確信犯で意地の悪い 隻腕の男に抱かれながら 亡き父に懺悔 

(御父さん、御免なさい 私は敵を取ってあげたかったけど それはどうやら 叶わそうな願い)














title by テオ snowball's chance in hell means 叶わなそうな願い